東京コウモリ探検隊! 探索録

2025年04月19日の巻

アブラコウモリ探索を始めて10年以上が経過した。東京都23区探索の1周目は終わり、現在2周目。23区内をまんべんなく徒歩で歩き回るという人は他にはまずいないだろう、と思っている。その探索ではコウモリ以外にもいろいろと遭遇、発見がある。動物だけの話ではない。今年はその探索の道行きを記録してみようと思う。
ここではもうひとつ、新しい文体を練り上げたいという気持ちもある。ネット文体やAI文体、あるいはYouTube話法とも言うべきものにどうも違和感があるからだ。これから試す文体はネットあるいはスマホ向けの文体ではないことはよくわかっている。密度が高い文章だからだ。だがそれが狙いなのだ。
このことはまたどこかで詳しく語りたい。

2025年04月19日(土)

アブラコウモリ探索も2周目の5年目になる。

探索の開始は普通なら5月、ゴールデンウィーク明けというのが恒例。というのは、その頃にならないと日没時の気温が十分に高くならないからなのだ。アブラコウモリは気温15℃以上でないと活動せず、数℃上回っただけでは活発に飛ばない。5月まで待たねばならないのだ。

週頭から天気予報を確認していると、土曜の気温が十分に高いことがわかっていた。最高気温は25℃を超えると言う。普通なら4月にここまで気温が上がることはまずないが、温暖化のせいか、たまたま土曜日が運良く高温になったか、とにかく探索に行ける条件を満たしている。
アブラコウモリの本格的な活動にはまだ早いかとも思われそうだが、アブラコウモリも腹をすかしているわけで活動しないはずがない。ならば行かねば。

ということで。
まだ活動の全盛期ではないので、観察が容易そうな場所…ということで荒川西岸を歩くことにした。1周目の時は下流から登っていったので、2周目は上流から下ることにする。
東京23区で荒川最上流は笹目橋の辺りになる。最寄り駅は西高島平駅。1周目の時は同駅から出発して白子川をさかのぼった。
それと、1周目では笹目橋〜浮間公園の荒川河川敷は歩いてないな…。この時はすぐ隣の新河岸川を歩いている。なので今回のコースの一部は初めて歩く場所となる。
ゴールは岩淵水門。わかりやすいランドマークを目標にする。今回は途中に観光名所がないので、最後に水門を置いたのだ。

4月19日当日。
久しぶりの西高島平駅。まわりの風景も前回と変わっていないようだ。日没にはまだ時間がある。
すぐには荒川には向かわない。駅の南側には高島通りに沿って細長い緑地帯がある(高島平緑地)。ここにアブラコウモリが来るだろうと予測できるからだ。
緑地の中を東へ歩いていると…突然、バットディテクターが鳴り始めた! 日没にはまだ9分もあるのに! 実はアブラコウモリが日没前に活動するというのは珍しい。よほど腹が空いているのか…。
しかも、バットディテクターの音からは2頭いることがわかる(音でわかるのだ)。見上げると確かに2頭を確認できた。
今年最初の観察、まずは幸先が良さそうだ。

次は笹目橋へ向かって歩くが、途中で日没時刻になった。
笹目橋を登り、新河岸川を越えて荒川堤防へ。すぐに堤防を下って、舗装路を歩いていく。アブラコウモリがいることはすぐにわかるのだが、それよりもなによりもクビキリギスの鳴き声が猛烈にうるさい!
クビキリギスはキリギリスの仲間で、バッタに似た外見の昆虫。初夏に草むらで「ジーーー」という大きな鳴き声で鳴く、といえば思い当たる人もいるだろう。キリギリス類は普通は冬は卵で越冬するが、クビキリギスは成虫で越冬する。つまり春になるとすぐに「ジーーー」と鳴き出すのである。
ここでわざわざクビキリギスを取り上げるのは、アブラコウモリ観察には妨害でしかないからだ。アブラコウモリの超音波は40〜50kHz。バットディテクターではこの周波数に合わせて超音波を聴き取っている。クビキリギスは、人間にも聞こえる音域から50kHzを超える周波数まで幅広い音域で大きな鳴き声を出している。つまりバットディテクターもクビキリギスの超音波を拾ってしまうのだ。そして、クビキリギスの方が圧倒的にうるさい。アブラコウモリの超音波が聞こえにくくなってしまうのだ。クビキリギスはアブラコウモリを営業妨害しているとしか思えないが、その妨害の理由が思い当たらなので単なる偶然なのだろう。アブラコウモリもクビキリギスの近くで飛ぶことはあまりないように思えるが、それを計測する方法が無いので検証もできない。
クビキリギスの騒音を軽減するには、バットディテクターをクビキリギスの逆方向に向けるしかない。が、あちこちで鳴いているとやっぱり結局聞こえてしまうことになる。
初夏の数カ月はこういう感じなので本当は河川敷の探索は避けた方がいい。のだがそれでは探索が進まない。

アブラコウモリは進めば必ずどこかで遭遇するので、探索は順調だ。
川岸に近いところには樹木が多く、舗装路の辺りよりもアブラコウモリが多いことは間違いないとわかっている。が、辺りはもう真っ暗なので舗装路を離れると足元が危うい…。こういう時はグラウンドの端っこなど整地しているところをたどって川の方へと往復するのが安全な方法である。

そうこうするうちに。
バットディテクターからかすかにラジオの音声らしきものが聞こえることに気づいた。こんなことは初めて…のはずである。音は小さいが雰囲気からしてラジオである。音は次第に大きめになり、19時の時報が聞こえ、TBSとの声も聞こえた。間違いなくラジオである。リアルタイムである。ラジオが超音波で発信されてる、なんてことはありえない。バットディテクターのセンサー部分をふさいでみても音声は聞こえる。ということは、これは超音波を拾っているのではない。おそらく中の電気回路がラジオの電波を拾ってしまうのだろう、と推測した。ゲルマニウムラジオと同じ原理である。

この文章を書きながら、あっ、と思いついた。
「TBSラジオ 電波塔」で検索。
ああ、なるほど。荒川対岸にTBSラジオ戸田送信所があるのか! これまでになかった経験だったのも納得がいく。この付近で特に音声も強かった。離れるとラジオ音声は聞こえなくなった。

さらに進んでいくと、後ろからおそらくガソリンを積んだタンク車が追い越していった。反対側からは3台の車がやって来る。河川敷を車両が走ること自体珍しい。しかも今は夜だぞ。
…前方に照明が見える。なにかイベントをやっているらしい。
近づくと、バーベキュー広場が会場になっているようだ。照明が煌々と点いているが人はほとんどいない。イベントは終了している。テントの掲示を見ると「ITa FES」とある。板橋のフェスなのか、イタメシのフェスなのか。今はネット検索でその場で調べられる。ほうほう、野外ライブなのか。1時間ちょっと前まで開場していたようだ。
かなり強い照明があると、→虫が飛んでくる→それを食べにコウモリも来る、というパターンはよくある。今回は、アブラコウモリは少ししか来ていなかった。虫の活動もまだ少ないのか?

ライブ会場を過ぎればまた暗い河川敷である。
少し進むと、荒川戸田橋緑地・生物生態園がある。水辺の生物が集まるように作られたエリアである。サンクチュアリという人間立入禁止の小島もある。いかにもタヌキも出てきそうな場所だが、いたとしてもそうそう見つけられるものでもない。
川の本流から引き込んだ水域に面して、野鳥観察デッキがある。暗いがコウモリがいるのは確実なので行く。着いてみるとクビキリギスが盛大に合唱している。バットディテクターから聞こえる騒音の中に、確かにアブラコウモリの超音波パルスを聞くことができた。続いて生物生態園の東端の観察広場にも行くが、そこではアブラコウモリは確認できなかった。

戸田橋、新幹線鉄橋を過ぎると赤羽ゴルフ倶楽部がある。河川敷ゴルフ場である。ここもタヌキがいそうだが、見つけることはまず無理。ゴルフコースにタヌキがいたとしてもこう暗くては認識すらできないだろう。

河川敷ゴルフ場というと増水による冠水のことを語りたいが、また別の時にしておきたい。今回は記事を紹介するだけにする。

【ゴルフノンフィクション/赤羽ゴルフ倶楽部】台風、冠水から57日。河川敷ゴルフ場を襲った未曾有の事態から営業再開まで。松澤淳二支配人が振り返る 2020-04-09

堤防の向こう側(住宅地側)には浮間公園がある。その方向の空が妙に明るい。ライトアップをしているのだろうか? これも後で調べたら確かにライトアップイベントをしていた。

アブラコウモリの話をあまりしてこなかったが、今回は少し歩けばアブラコウモリの超音波が聞こえる、という状況。1頭だけが近くを通過する、というパターンがほとんど。この時、目視では確認していない。暗い場所では発見はまず無理である。そのためバットディテクターが必須となるのだ。

ところでクビキリギスだが、やはりうるさいものの、草むらがなければクビキリギスもおらず静かなものである。

JR鉄橋を過ぎたところで対岸を見ると、川口駅東口の高層ビル群が見える。
新荒川大橋を越えるとゴールも近い。まず、岩淵水位観測所を通過。その先が赤水門である。正式名は旧岩淵水門。詳しくはネットで。100年前の完成で、今は使われていない。
赤水門を渡ると赤水門緑地(中之島)という小さな島がある。ここでは3頭以上のアブラコウモリがいるようだった(当然見えない)。今回アブラコウモリが最も多いのはここだった。

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と、ここで涙、鼻水が出てきた。花粉症だ。もう花粉はあまり飛んでいないはずだが、長時間外にいるとそうもいかないか。マスクはちゃんと用意してある。

それと、AppleWatchのバッテリーが無くなりそう! 直ちに低電力モードにする。去年の夏、中古のAppleWatch7を買ったのだが、ずっとアブラコウモリ探索には行けなかったため今回が初めてのAppleWatch付き探索となった。運動するとバッテリーの減りが早いことはわかっていたが…。次からは出発前の充電をしておいた方がよさそうだ。

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そして、赤水門の先がゴールの青水門、正式名、岩淵水門。こちらが現役の水門となる。こちらは築40年超。いや、大きいね。大きい。近くだと(スマホの)カメラのフレームに収まりません。ダイナゼノンが出てきそう。(アニメ「SSSSダイナゼノン」では岩淵水門ではないが、実在する荒川の水門が登場する。巨大ロボット「ダイナゼノン」が荒川に出現するシーンもある。)
青水門を渡ったところで目標到達。次回はここから探索を再開する予定。
…なのだが、ここから赤羽岩淵駅へと行かねばならず、そちらが真のゴールなのである。ここからは新河岸川に沿って行くことになる。

途中に岩淵八雲神社があるのでお参りする。途中に神社がある時はなるべく寄るようにしている。東京都区部の神社はほとんどが南か東を向いているが、岩淵八雲神社は数少ない西向き神社である。…うんちくは省略。どこかでまた語ることがあるだろう。
付随して小さな水神社があるのでそこにもお参り。こういう「小さな神様」も必ず寄るようにしている。水神社のお参りが終わった途端、アブラコウモリの超音波が聞こえる。素晴らしい。神社はアブラコウモリがよく来る場所でもあるので立ち寄ることは必要なのである。

そして赤羽岩淵駅到着。所要時間約3時間45分、距離12.9km。だいたい20000歩ぐらいか。途中休憩なしのノンストップ。初回にしては頑張りすぎかも。

そういえば今回はネコに遭遇しなかったな、と後から気づく。河川敷には意外とネコがいるものなのだが。これも別の機会に語りたい。

さて、今回の探索はここで終わらないのだ。
地下鉄は四ツ谷駅で南北線から丸ノ内線に乗り換える。この四ツ谷駅はアブラコウモリを観察できる地下鉄駅なのである! と言ってもこれは同駅が地上駅だからこそ可能なこと。四ツ谷駅は上智大学に隣接しているので緑地に近接している。この環境ならアブラコウモリが近くを飛んでいる可能性が高い。地下鉄が来るまで数分しかなかったが、アブラコウモリの超音波を確認することができた。

東京の地下鉄駅でアブラコウモリが観察できるのはここの他にはあるだろうか? 中目黒駅ぐらいか?(目黒川の真上にあるので超音波はぎりぎり聞こえるかもしれない。) 後楽園駅も可能性ありそう。

これで本日の観察は本当に終了である。

日没時刻 18時17分
観察箇所数 26 (四ツ谷駅1箇所含む)
歩行距離 12.9km(四ツ谷駅除く)
歩行時間 約3時間30分(四ツ谷駅除く)

次の土曜日はやや気温が低くなりそうなので…最高気温が20℃以下、日没時には15℃前後になりそうなので探索は休み、と早々と決める。その次の週はゴールデンウィーク連休になり、気温も高めなので2回は探索に行けそうだ。

2025年4月24日筆了

さて、昨年の事情についても説明しておきたい。
私の仕事については詳しくは話さないが、現場に入ることもある仕事だ。本来は私が行かなくてもいいのだが、昨今の人手不足、行かざるを得ないこともある。昨年の春からは主に2つの現場で恒常的に人が足りなくなったために毎日のように現場行きになることもあった。ひとつの現場は始発2本めの電車に乗って行かなければならないし、土日に別の現場に行くこともあった。しかも去年はかなりの暑さ。現場というのが冷房が効いた場所とは限らず、体力温存には気をつけなくてはならない状況だった。これではアブラコウモリ探索に行く余裕はまったくない。アブラコウモリ探索どころか他のこともできなくなるほどで、一度は半日起き上がれなかったこともあった。
秋になり、私が現場で適切な対応をしなかったためにある現場から事実上の追放処分を受けることになってしまった。とはいえ、人手不足だし、現場のことを一番良く知っているのも私なので、その後も時々出入りはしているし、裏で情報提供したりして今も関わっている。が、現場に行く機会がかなり減り、分担を減らしてもらったりして今では普通の会社員っぽい生活になってしまっている。ただ、昨年のアブラコウモリ観察シーズンには間に合わず、探索は再開できなかった。
今年は再びアブラコウモリ探索に行けるはずである。

それにしても、
日本人は本当に働き過ぎである。特に男性会社員。まあ、みんながみんなそうではないだろうが。去年の宮本隊長は本を読むヒマもコンサートに行くヒマ(それでもなんとか2回行った)も文章を書くヒマもイラストを描くヒマもない生活だった。これでは文化的な生活なんてできないし、新しい発想も出てこない。こんな仕事ばかりの生活ではみんなダメダメグダグダになってしまい、景気だって良くならなだろう。と思う。時間の余裕は大事だ。
だから、アブラコウモリ探索に行くというのはとても大切なことなのである。

2025年4月25日筆了

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